揺動散逸定理についてつらつらと

少し息抜きをかねて揺動散逸定理について感じたことをつらつらと。
揺動散逸定理というのは、アインシュタインが発見した定理で、
平衡状態から離れるよう働く揺動と平衡状態へと向かわせる散逸の間の関係を表したものです。

式で表せば、
\frac{dv}{dt} = -\frac{\partial H}{\partial x}-\mu v(t) + \delta F(t)
<\delta F(t) \delta F(t')> = 2D\delta(t-t')
この、 散逸の大きさ\mu と、 揺動力の大きさD の間に、 D=\mu k_B T の関係が成立するというものです。

導出は幾通りかあって、
ひとつは、系が最初から平衡状態にあるとして速度分散(k_BT/m)が時間に依らないためには上の揺動散逸定理が成り立たなければならないというもの。

もうひとつは、最初は系が平衡状態にないとするものです。
十分時間が経てば速度分散は揺動と散逸の釣り合いによって初期条件に依らない一定値に落ち着くだろうと予想されます。この時の速度分散がある温度での平衡状態での速度分散と等しいと置くことによって揺動散逸定理を導出します。

二つ導出方法は、時間の原点を注目する粒子が平衡状態に達する前に置くか後に置くかという違いを無視すれば実質的に同じものです。

ここでは、二つ目の導出について簡単なシミュレーションを行ってみようと思います。

調和振動子の場合を考えます。 揺動と散逸を固定して適当な初期条件を与えて位相空間上で時間発展させたものをプロットしてみます。

from pylab import *
time = range(10000)
for i in range(10):
    del(x,v)
    x = [2.0*(random()-0.5)]
    v = [2.0*(random()-0.5)]
    dt = 0.01

    for t in time:
        x += [x[-1] + v[-1] * dt]
        v += [v[-1] - x[-2] * dt
              - v[-1] * dt
              + 5*(random()-0.5) * dt]
    plot(x, v)

10本の軌跡が図の中心に引き寄せられて最終的には初期条件に依らない一定軌道を描きます。
この軌道上での速度分散が、揺動と散逸がない場合のハミルトニアンのある温度での速度分散と等しいというのが揺動散逸定理の主張するところです。

揺動と散逸が熱浴の役割を果たしているということもできるでしょう。

大分簡単化されたモデルではありますが、初めて非平衡状態から平衡状態への緩和の過程を記述したという点でこの定理のもつ意義は非常に大きかったようです。